大分大学 北野学長率いるアデランス・大分大学寄附講座研究チーム
抗がん剤による脱毛抑制におけるαリポ酸誘導体と
皮膚冷却の有用性を解明
~医学誌「Cancer Science」に論文が掲載~
毛髪・美容・健康のウェルネス事業をグローバル展開する株式会社アデランス(本社:東京都新宿区、代表取締役社長 津村 佳宏)は、2013年から大分大学と抗がん剤治療の副作用である脱毛症の予防に関する研究を進めています。この度、大分大学に2022年7月に設置した寄附講座「先端がん毛髪医療開発講座[アデランス]」を中心とした研究グループが、αリポ酸誘導体と皮膚冷却が抗がん剤による脱毛を抑制する効果とメカニズムを明らかにしました。また、本件に関する論文が日本癌学会の機関誌である「Cancer Science」にアクセプト(受理)され、2022年11月7日(月)に掲載されました。2月14日(火)に当社研究開発サイトにおいても論文(要旨部分)の和訳を公開しました。
研究テーマ
「動物モデルにおける抗がん剤脱毛に対する皮膚冷却療法とαリポ酸誘導体の治療効果」
研究結果
抗がん剤によっておこる脱毛を抑制あるいは回復させる手段として、αリポ酸誘導体と皮膚冷却の働きを検討することで、この研究によりそれぞれの手法の有用性が明らかになり、脱毛予防・回復としての期待が、より高まるものとなった。
研究背景
大分大学医学部では、かねてよりαリポ酸誘導体が抗がん剤治療による脱毛を抑制する効果があることをマウスで確認し、その際に、皮膚の炎症細胞浸潤の軽減や、毛根・毛幹障害の抑制、酸化ストレスの抑制、アポトーシス誘導の抑制などが生じていることを報告されていました。一方、当社では毛髪・美容・健康のウェルネス産業として、抗がん剤治療による脱毛に悩む患者様をサポートしたいと考えて参りました。医療現場では、がんの治療を優先される中、脱毛による容姿の変化を恐れる方も少なくありません。そこで、2013年11月に抗がん剤治療による脱毛の予防に関する共同研究を締結、産学連携のプロジェクトを開始し、2022年7月には寄附講座「先端がん毛髪医療開発講座[アデランス]」を開設して研究を継続しています。これまでαリポ酸誘導体を用いた脱毛予防剤の開発を目指し、脱毛のメカニズムの解明、脱毛を抑制する新しい治療法の開発などを行っています。
今回、論文が掲載された「Cancer Science」は、100年を超える歴史を持つ日本癌学会の機関誌で、世界でも定評のある癌専門雑誌として広く知られています。アデランスではこの論文の要旨を日本語訳し、アデランス研究開発サイトでも公開しています。
●論文(日本語版要旨)URL
https://www.aderans.co.jp/corporate/rd/news/information/1188/
●アデランス研究開発サイト
https://www.aderans.co.jp/corporate/rd/
日本語論文要旨
●論文タイトル
Efficacy of cooling therapy and α-lipoic acid derivative against chemotherapy-induced alopecia in an animal model
(動物モデルにおける抗がん剤脱毛に対する皮膚冷却療法とαリポ酸誘導体の治療効果)
●研究チーム
相場 崇行1、河野 洋平2、衛藤 剛1、河野 陽子1、大嶋 佑介1.3、猪股 雅史1.2
1大分大学医学部 消化器・小児外科学講座、2大分大学医学部 先端がん毛髪医療開発講座[アデランス]
3富山大学 工学部
【目的】
抗がん剤脱毛は、化学療法のさまざまなレジメン*1によって頻繁に誘発され、精神面やQOLに大きな影響を与える。しかし、抗がん剤脱毛に対する現在利用可能な治療の効果は十分とは言えない。
本研究は、抗酸化物質であるαリポ酸誘導体と皮膚冷却療法による抗がん剤脱毛に対する治療効果とメカニズムを明らかにすることを目的とする。
【方法】
我々はICR(Institute of Cancer Research)マウスを使用して、抗がん剤シクロフォスファミド120 μg/gの抗がん剤脱毛モデル*2を作成した。治療は皮膚冷却*3とαリポ酸誘導体塗布*4を行った。それによる脱毛スコア、毛包径、IGF-1*5値、血管透過性*6、およびアポトーシス*7細胞数を、シクロフォスファミド投与のみの場合とシクロフォスファミド+各治療群とで比較*8した。
【結果】
脱毛スコアは、シクロフォスファミド群と比較して、各治療群で有意に改善した。(図1)
毛包径はシクロフォスファミド群に比べ、シクロフォスファミド+冷却群が有意に改善した。(図2a~d)IGF-1値と血管透過性は、シクロフォスファミド群と比較して、各治療群でそれぞれ有意に保持および抑制された。(図3 a~c)(図4 a、b)
血管内皮のアポトーシス細胞数は、シクロフォスファミド群に比べてシクロフォスファミド+αリポ酸誘導体群で有意に減少した。(図5 a、b)
【結論】
冷却療法とαリポ酸誘導体は、血管透過性を低下させることにより、シクロフォスファミドによって引き起こされた抗がん剤脱毛からの回復を促進することが示された。
*1 使用する抗がん剤の種類、用法、用量、休薬期間だけではなく、制吐剤などの副作用を軽減するために使用する薬剤も含めて、投与に関するすべてのものを時系列で示した治療計画。
*2 ICR(アルビノ(白い毛)のマウス、生体試験には古くから用いられている)6週齢マウスの背部皮膚を抜毛して成長期毛包に揃えたマウス(この日を日数カウントの起点日とする)に対し、9日目に抗がん剤投与。
*3 サーキュレータ(冷却液の循環器)を用いて抗がん剤投与前後に背部皮膚を2時間冷却(投与前30分および後1時間30分、皮膚表面温度19℃)
*4 αリポ酸誘導1%配合ローションを8日目から評価日まで継続して背部に塗布。
*5 インスリン様成長因子:毛髪、体毛や体の成長や発達に重要な役割を果たす。
*6 血管とその周りの組織との間で起こる水分や栄養分などの移動のこと。通常タンパク質などの分子量の大きな物質は透過しないが、血管のトラブルや炎症状態、低栄養など様々な原因で同化性が亢進する。抗がん剤により頭皮内の血管も透過性が亢進することが明らかになっている*。
*7 細胞が自ら死を迎えること。
*8 10日目(抗がん剤投与後24時間)、16日目、37日目といった経時的に各種測定。
*Sagawa,Oshima,Hiratsuka,Kono,Etoh,Inomata(2020)「Role of increased vascular permeability in chemotherapy-induced alopecia: In vivo imaging of the hair follicular microenvironment in mice」Cancer Science https://doi.org/10.1111/cas.14396
用語について
・CYP:シクロフォスファミド(抗がん剤) ・ALAD:αリポ酸誘導体 ・Cooling:皮膚冷却
・Control:比較のために特別な措置を行わない、対照群
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