「こんにちは、はじめまして!」
明るく笑顔が素敵な女性。それが石垣愛華さんの第一印象です。足元には、盲導犬のトウハがおとなしく座っています。幼い頃から弱視だった石垣さんの目の光が完全に消えてしまったのは、26歳のときでした。

「ずっとメイクに興味はありましたが、見えなくなったことで、もう自分でメイクすることは無理だとあきらめていました。外を歩いていても、みんなが自分を見ているような気になって、下ばかり見ていたんです」

石垣さんがブラインドメイクを知ったのはそんなときでした。ブラインドメイクとは、視覚障害者の方が鏡を見なくてもフルメイクアップできる化粧技法のこと。「これなら、私でもメイクができるかもしれない」。大阪でレッスンを受けることができると知った石垣さんは、その日のうちに沖縄からの飛行機チケットの手配をしたのです。

「レッスンでは視覚障害者の方がブラインドメイクを実演してくださったのですが、わずか12分でフルメイクを完成させてしまったんです。その手際の良さに、私よメイクが立ちあがる力になる、そして生きる力になるりも母のほうが驚いてしまったくらいです」

その日からブラインドメイクの特訓に励んだ石垣さんは、15分でフルメイクができるまでに上達。チークもリップも、器用に指を使って自分で仕上げます。
「メイクをする前は、道に迷っても人に声をかけられませんでした。でもいまは、自分から声をかけることができます。メイクに勇気をもらったんです」

いま、石垣さんは会社員として働きながら、ブラインドメイク普及のための活動をし、さらにユニバーサルデザインのメイクパレットをアデランスと一緒につくっています。視覚障害者はもちろん、晴眼者も使いやすいメイクパレットです。

「今年の完成をめざして準備している段階です。これを持って、いろいろな国に行き、視覚障害者でもメイクができるのだということを、伝えたいんです」
そう話す石垣さんの笑顔は美しく、キラキラと輝いていました。


石垣愛華さん
公益社団法人 化粧療法協会(理事長 大石華法さん)、
ブラインドメイク委員会所属。石垣さんが完成をめざす
メイクパレットの話を聞いたアデランスの津村社長が、技術提供を申し出た


メイクアイテムを綺麗に並べていく石垣さん。「他の人が並べてしま
っては、メイクの順番がわからなくなってしまうんです」


ブラインドメイクを教えると、その方の声が上向
きに変化するのを感じるそう。「メイクをするこ
とで、顔を上げられるようになるんです」

取材・文/中村未来