髪の毛は、ある期間成長すると自然に抜け、しばらくするとまた新しい毛髪が生えてきます。毛周期と呼ばれるこのメカニズムと男性型脱毛症のメカニズムとの関係を解き明かしたのが、大分大学客員教授の板見智先生。日本における毛髪研究の第一人者です。日本の薄毛治療の現場で使われている「脱毛症診療ガイドライン」の策定にも携わりました。

「2010年に策定された最初のガイドラインは、男性型脱毛症に特化したものでした。しかし、2017年に改定されたガイドラインでは、女性型脱毛症の治療についても触れています。治療が難しいといわれていた女性型脱毛症も、近年の研究によって、段々と治療法がわかってきたのです」
脱毛症の研究と同時に、板見先生は患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の改善にも意欲的です。2015年にはウィッグのJIS規格化づくりに取り組みました。

「ウィッグは直接肌に触れるので、素材によっては接触性皮膚炎などを引き起こすことも考えられます。そこで、患者さんが安心して医療用ウィッグを選べるように、医学的な基準となるJIS規格をつくりました」

こうした毛髪治療の目覚ましい発展の背景には、研究機関を支援する企業の存在があります。板見先生が中心となって研究を進める『皮膚・毛髪再生医学寄附講座』(大阪大学)はアデランスの支援によって実現しました。

「我々が研究に没頭するためには企業からの支援は非常に重要です。産学連携によって、毛髪治療の研究は、今後さらに進んでいくと考えています」

板見先生の30年以上におよぶ毛髪研究によって、脱毛治療は大きく前進しました。しかし、治療がうまくいって笑顔になる人ばかりではないと板見先生はいいます。

「心に残っているのは、治療法が見つからず、あきらめてしまった人たちのことです。男性型脱毛症と違い、円形脱毛症にはまだ、効果的な治療法が見つかっていません。円形脱毛症の原因を突き止め、根本的な治療法を探すことが、我々研究者に課せられた、次なる課題だと思っています」

板見智先生
大阪大学医学部医学科卒業。現在、大分大学医学部客員教授。
臨床と研究の両立を希望し、皮膚科に進む。
「男性型脱毛症診療ガイドライン」(2010)、
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」(2017)
の策定委員として中心的役割をはたす


「私が医学生だった頃は皮膚科に進む学生は少なかったんですよ」
と笑う板見先生。しかし、自身の30年以上の毛髪研究成果もあり、
いまではもっとも注目される医療分野に成長した

取材・文/中村未来