まさしくアデランスの“トータルウェルネスカンパニーの顔”ともいえる活動が、ミュージカルやドラマ、映画などエンタテインメント分野でのウィッグ提供です。
そのすべての始まりは、1983年の“ある作品”にまでさかのぼります。
撮影:山之上雅信
1980年代初頭。日本を代表する劇団「劇団四季」は、ロンドンのウエスト・エンドで大人気のミュージカル『キャッツ』の日本での上演を企画していました。
しかしそこには大きな問題が。作品に登場する“猫”のウィッグがなかったのです。
実はウエスト・エンドの公演では、役者ごとに専属スタイリストがつき、上演中に頻繁にヘアメイクを直していました。でも劇団四季では、とてもそんなにスタイリストを揃えられない。だから、激しい動きに耐えられるウィッグをどうしても見つけなくてはいけない……。ところが当時は時代劇用のかつらはあるものの、こうした激しい動きを伴う作品用のウィッグはまだありませんでした。困った担当者はかたっぱしからメーカーに電話するも、返事はすべて「無理です」。
唯一手を挙げたのが、アデランスだったのです。
とはいえ、アデランスも二つ返事でOKというわけでは決してありませんでした。一般向けのウィッグでは実績があったものの、エンタテインメント用ウィッグのノウハウはない。実際に社内からは、「できません」と反対の声も上がりました。しかし、当時の社長で現会長の根本信男の言葉が進む道を決めました。
「お客さんはどうしてもそれが必要なんでしょ? それなら一緒につくろうよ」
こうしてスタートした、劇団四季とアデランスによる共同プロジェクト。そのウィッグの条件はこうでした。激しい動きでもずれず、乱れにくく、汗を発散する通気性がある。そして見た目が“リアル”であること。そうした課題をさまざまな工夫で一つずつクリアしていき、1982年末にウィッグはついに完成します。
撮影:山之上雅信
毛には毛足の長いウシ科の動物・ヤクのものを使うというこだわりぶり。「エンタテインメントウィッグ」という新ジャンルが開拓された瞬間でした。
そんなウィッグの後押しもあり、1983年に行われた『キャッツ』の日本初演は大成功。以降上演が重ねられ、2019年には総公演回数1万回を記録。劇団四季を代表する驚異的ロングラン作品となりました。
その画期的なウィッグは現在もアデランスが担当。両社が出会い、新しいミュージカルを成功させたい、という共感が生まれなければ、今の『キャッツ』はなかったかもしれないのです。
そんな『キャッツ』は、アデランスの未来も広げました。『キャッツ』用ウィッグの開発を受け、アデランスは1985年にエンターテインメント部門「スタジオAD」を設立。以降『オペラ座の怪人』『美女と野獣』といった人気作品をはじめ、さまざまなミュージカル・演劇・コンサート・映画・テレビなどでエンタテインメントウィッグを提供してきました。自分たちの技術や強みで、人を楽しませること、ワクワクさせること、感動させることに寄与する。今ではそれが大切な使命の一つとなり、アデランスに息づいています。
撮影:山之上雅信
劇団四季
年間の総公演回数3000回以上、総観客数300万人を超える、日本を代表する演劇集団。
1953年創立以来、ストレートプレイからミュージカルまで幅広いレパートリーを上演。
『キャッツ』は現在、東京・大井町でロングラン上映中
取材・文/田嶋章博