研究成果が国際科学誌『ネイチャー』に掲載されるほどの気鋭の研究者。しかし、実際は穏やかな笑顔が印象的な西村栄美先生。基礎研究に励み、皮膚の老化のメカニズムを解明したり、白髪や脱毛の原因を探ったりと忙しい日々を過ごす西村先生は、今から3年前に円形脱毛症に悩まされました。直径4センチほどの脱毛部分が見つかったとき、「このままひろがり続けたらどうしよう」という不安に陥り、それ自体がストレスになっていったと振り返ります。
「円形脱毛症は3か月くらいで自然に治ることもあります。ただ頭皮全体にひろがる全頭性脱毛症の場合、皮膚科でも治療が難しいこともあります。そんなとき、デパートにあったフォンテーヌの店舗に入り、ウィッグを着けてみたんです。すると、『最終的にはウィッグがあるからいいか』と思えるようになれました。ウィッグがあると思うことで、不安が和らいだんです」
その安心感からか、ほどなく円形脱毛症が治ったという西村先生。その経験を知人の男性に伝えたところ、男性はさっそくウィッグを試し、西村先生に「こんなにラクならもっと早くつくればよかった」と話したそうです。一連の実体験を通じて西村先生は、脱毛に悩む人の気持ちはもちろん、メカニズムを考えるうえでも「より具体的にイメージできるようになりました」といいます。
そんな西村先生の研究テーマは、加齢やストレスによる脱毛症のメカニズムを解明すること。
「加齢とともに毛をつくる小さな組織“毛包”のサイズ自体が少しずつ小さくなっていく。その原因を調べていくと、幹細胞が減っていました。本来は毛をつくる細胞になるはずだった細胞がフケやアカに変わって、皮膚の表面から捨てられていたのです。その幹細胞がちゃんと毛をつくるように、あるいは失われないようにすることが、一つの治療法になりうると仮説を立てて、研究を続けています」
マウスによる実験では、すでにエビデンスも得られているそうです。「近々、育毛剤や発毛剤を開発できたと公表できれば」と希望に満ちていました。ただ現時点で脱毛や白髪に悩んだときは、皮膚科の専門医に診てもらうべきと強調します。
「脱毛症のなかには、正しい治療を早く受ければ防げるものもあります。私たちもアデランスさんとの縁を機に、さらに研究を重ねています。みなさんの笑顔につながる成果が生まれるよう努力していきます」
西村栄美先生
京都大学医学研究科博士課程修了。
東京医科歯科大学 難治疾患研究所 幹細胞医学分野教授。
研究領域は幹細胞生物学、老化生物学、皮膚科学など。
第8回日本学術振興会賞など受賞歴多数
取材・文/呉 承鎬 撮影/宗廣暁美