脱毛症へのLED照射の有効性と、今後の毛髪再生医療の広がり
※所属、役職は取材当時のものとなります。
2017年度版「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」の中に新たにLEDおよび低出力レーザー照射の項目が加わりました。その推奨度は男性型脱毛症と女性型脱毛症ともにB。
今後の男女の脱毛症診療におけるLEDの有効性と、今後の毛髪再生に期待が持てる診療術について話をうかがった。
2017年版「診療ガイドライン」に加えられたLED照射の効果
2017年度版「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」の中に新たにLEDが加わったことについて、どのようにお考えですか。
AGAに対して代表的な治療方法は内服薬と外用剤です。外用剤のミノキシジルは男性に対しても女性に対しても有効であるということで推奨度はA評価を受けています。一方の内服薬は男性に対しては高評価ですが、女性には推奨されていませんでした。ところが今回、B評価として低出力レーザーとLED照射が加わったことは、女性型脱毛症の治療の幅が広がったということで大きな意味合いがあり、女性の場合は外用剤プラスLEDあるいは低出力レーザーという組み合わせが基本治療になっていくということが考えられます。
もちろん男性にとっても、内服薬あるいは外用剤のミノキシジル、今回B評価になったアデノシン、それらが完全に100%有効で満足できる結果をもたらすかというと、そうでもない人もいるわけです。LEDの立ち位置として、それらの内服薬や外用剤で満足できない人にプラスアルファの治療を加えることができるということが非常に大きい意味があります。
男性型脱毛症の人は今後、内服薬をベースに、外用剤ミノキシジルあるいはアデノシン、加えてLEDあるいは低出力レーザーを使うというような複合的な治療法が、プラスアルファの大きな効果が出てくるのではないかと期待できます。それでも満足いかない場合は、自毛植毛を考えましょうということになってくるのではないでしょうか。もちろん植毛した人も薬剤療法やLEDなどを併用する方が多くなると思います。
LEDのメカニズムを考えると、これは他の治療と併用しても何ら阻害することなく、副作用なく使えるというのが大きい。だから今からはこういう複合的な治療が多くなってくると考えてます。
倉田先生のところに来る前に、LEDを組み込んだヘアドライヤーを開発したシャープを訪問してきました。今後はサロンだけではなく、個人でLEDを自在に使える時代が来たような気がします。
LEDの装備されたヘアドライヤーの特徴は育毛効果を狙った赤色LEDに加えて、シャープが開発したプラズマクラスターが導入された大きなコンビネーションですね。育毛効果としてはまだ高評価は得ていないかもしれませんが、LEDの作用が生かされていて、科学的にも非常に注目されるヘアドライヤーです。
新たにデュタステリドが加わった治療の広がり
この診療ガイドラインでもう一つ注目されるのが、デュタステリドが加わったことですね。
デュタステリドが加わったことによる大きな意義は、内服薬が一種類から二種類へと選択肢が増えたことです。フィナステリドとデュタステリドのメカニズムはかなり近い。実際にはフィナステリドは5αリダクターゼ(還元酵素)のタイプⅡを抑えてくれるということで、男性の脱毛メカニズムの根幹を改善するという作用なんですが、デュタステリドはタイプⅠとタイプⅡの両方の酵素を抑えてくれます。ただし、タイプⅠは男性型脱毛症に大きな影響があるという証拠はありません。タイプⅡだけを抑えるだけで本当は良いはずなんですが、タイプⅠとタイプⅡの両方抑えるという機能を持った薬品としてデュタステリドは登場してきて、フィナステリドと同じように効く、あるいはさらに良く効くと言われている部分もあるので、使い方を医療従事者の側が考えながら選択していくことができるようになりました。
5αリダクターゼのタイプⅡを抑える内服薬、フィナステリドが効かない人がいるということですか。
効きが悪いか、あるいは抑えきれないぐらい進行の度合いが極めて強いという人もいます。20代で脱毛症が急速に進行してしまうという人もいるんです。そういう人はフィナステリドの通常の用量では少ないのかもしれません。そうすると、フィナステリドをたくさん飲むという選択肢が正しいかどうかということになってくる。例えばあなたは1錠、あなたは3錠というようにして良いかどうか、3錠飲むんだったら高額になってしまう。そうすると、もうちょっと効果の高い薬が選択肢としてあれば、そちらを選ぶということはできるわけです。
薬の効き方は人それぞれで、100点の人ばかりではなく、60点、50点の人もいる。フィナステリドが効かなければ、デュタステリドに替える、またはデュタステリドが効かなければフィナステリドに替える。いろんな処方の選択肢ができたという意味では、治療に於けるオプションとしてはデュタステリドの登場は非常に大きい。さらに先ほどのLEDなどの補助的なものを使って複合的な治療をすれば、男性型脱毛症はかなり改善していきます。
成長因子導入への期待
注目すべき項目として、成長因子導入および細胞移植療法があります。
私自身は脂肪肝細胞には興味があります。自分のあるいは他人の脂肪肝細胞を培養して、その培養上清を注入するという療法です。また、血小板の中の細胞成長因子を使ったPRP(多血小板血漿)療法には注目していますが、今回は、そのどちらも行わないほうがいいというC2になっています。
しかし私自身は、今後はサイトカイン(細胞増殖因子)というものが毛髪医療のキーワードになると思っています。毛周期でいえば、どのように成長期を誘導するのか、成長期を維持するのか、退行期を食い止めるのか。そのためのサイトカインを引っ張り出してくれる治療が今後は中心になっていくのではないか、と。例えばLED照射は毛髪の成長期を誘導して維持するというサイトカインの働きを高めるということを外因性(外から追加して)として行います。それがもっと直接的に内因性として行える治療なのです。それは自分の細胞がサイトカインを作ってくれることにつながります。
例えば、PRPの中に含まれているサイトカイン、細胞増殖因子がそういう働きをしてくれるということで、LEDのように外からも、PRPのように内からも相互作用が起こってくれるということが非常に重要だと思います。
脂肪肝細胞というのは、細胞自体を使うものと、脂肪肝細胞の培養上清液を使うものがあります。細胞を培養する時というのは、液体を入れて育てます。その中に入れた液体の中に、細胞から出てくるサイトカイン、細胞増殖因子が多量に含まれている。それを集めて体内に導入するというもので、PRPと似たところがある治療なんです。ただし、そうしたものの使い方とともに、これらのサイトカインの性質はまだ完全には解明されていないのです。
効果はあると聞いていますが…。
効果はあるのですが、問題はいつ、どんな条件で採ったものか、すべてのものが同じ品質かが問題です。中には逆に成長期から退行期を促すサイトカインが含まれている可能性があり、この場合髪の成長にマイナスに作用するものが混入していることになります。必要なものだけ取り出す方法があるか、あるいはどのくらいの量が入っているのか、そういう研究をしっかりやらないと良い治療にはなっていかないのです。
インタビュー・文/佐藤 彰芳 撮影/圷 邦信、後藤 裕二
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