AGA(男性型脱毛症)について

AGA(男性型脱毛症)とは

日本では壮年性脱毛症が正式の病名です。
欧米では、男性に特有な脱毛としてmale-pattern alopeciaとか、
男性ホルモンが関与していることからandrogenetic alopecia(AGA)と呼ばれています。
日本では一般的に男性型脱毛症と呼ばれ、最近はAGAと略記されることもあります。

症状

後頭部を中心に次第に薄くなったり(O型)、前側頭部が後退していく(M型)のが特徴で、O型とM型の混合型もあります。発症する年齢は早い人は17歳くらいから始まりますが、多くは20~30歳代、遅い人は40歳をすぎてから起こることもあります。
初期には、大きな毛包※1が早く休止期※2に入って脱毛するので、洗髪時やブラッシングの際に太く長い毛(硬毛)が数多く抜けます。しかし、症状が進むにつれ毛包は縮小して細く短い毛(軟毛)になるため抜け毛は目立たなくなってきます。更に、次第にうぶ毛様軟毛だけとなり、地肌が見えるようになります。どの時期でも、抜け毛は棍棒毛※3です。頭皮は脂っぽく、湿ったフケが多い脂漏性です。また、あごひげが濃く、胸毛、四肢の多毛などがしばしば見られます。

※1 毛孔の奥にある毛髪を囲む、細胞の層からなり、毛髪の細胞を十分な硬さ・形にして硬質化する組織
※2 毛周期の毛母の細胞分裂が完全に停止する期間
※3 生理的な抜け毛

皮膚の構造
ハミルトン・ノーウッド分類

原因

男性型脱毛症は素因が遺伝することが知られています。直接の原因は男性ホルモンの影響を受けて、毛母細胞に成長阻害因子が働き毛周期を短縮させるためです。この際、毛乳頭細胞が重要な働きをします。なお、男性ホルモンの影響を受ける毛は、前頭部~頭頂部の毛、あごひげ、腋毛、陰毛などです。後頭部の毛と眉毛は影響を受けません。

男性ホルモンが作用するのは毛母細胞ではなく、毛乳頭細胞です。毛乳頭細胞が毛の成長や毛根の形成に重要な役目をしているのですが、とくに男性ホルモンで成長が左右される毛では、その毛乳頭細胞が男性ホルモン受容体(アンドロゲンリセプター)を持っています。男性ホルモンが毛乳頭細胞のはたらきを調節する結果、毛の成長が促進あるいは抑制されます。しかも、毛乳頭細胞は、テストステロンを還元して、いっそう強力な男性ホルモンであるデハイドテストステロン(DHT)に変える5α-リダクターゼ(還元酵素)を持っています。

テストステロンが毛乳頭細胞の細胞質に取り込まれると、この酵素がはたらき、DHTとなって男性ホルモン受容体に結合して、細胞の核に移動します。さらに、この結合体が遺伝子のはたらきを調節する結果、毛乳頭細胞がつくる指令因子が調節されます。このシステムはもう少し複雑で、5α-リダクターゼにはⅠ型とⅡ型があり、Ⅰ型はほとんどの毛の毛乳頭細胞にありますが、Ⅱ型は男性ホルモン作用を強く受ける髭や前頭~頭頂毛の毛乳頭細胞に分布します。つまり、Ⅱ型5α-リダクターゼによってできたDHTが髭の硬毛化を起こし、一方、前頭~頭頂毛の軟毛化を起こします。

毛器官における男性ホルモンの作用
TS:テストステロン
AR:アンドロゲン受容体
5α-DHT:5α-ジハイドロキシテストステロン
5α-R:5α-リダクターゼ(還元酵素)
HGF:肝細胞増殖因子
IGF-1:インスリン様増殖因子-1
TGF-β1:トランスホーミング増殖因子β1

対策(治療)

男性型脱毛症は、遺伝的素因を持っている人に男性ホルモンの作用で発症する、1種の生理的(老化)現象です。発症した人はその進行を止め、かつ元の状態に戻すことは極めて困難といわざるを得ません。医療機関では診断を行い、合併する脂漏性皮膚炎やフケ症の治療は行いますが、男性型脱毛症の治療は行いません(フィナステリド(プロペシア@,1mg,0.2mg)※1は処方します)。

治療の目標は次の順です。
①脱毛の進展を抑え、遅らせる。
②現状を維持させる。
③増毛させる。

育毛剤を使ったが、一向に毛が増えないという不満の声をしばしば耳にします。しかし、進行を遅らせたり現状を維持できれば、その育毛剤は(最低限ですが)使った価値があるといえます。効果を良く理解したうえで使用することが大切です。
効果がある治療(対策)はフィナステリド内服で進展を阻止し、作用機序が明らかな(効果がある)育毛剤で増毛を図ることです。欧米では、フィナステリド内服(軟毛化阻止)とミノキシジール外用(発育促進)が一般に用いられます。
最近の研究では、超狭帯域赤色LEDも非常に注目されています。

※1 毛母細胞の成長阻害因子の誘導が起こらないため男性型脱毛症の進展を阻止します。増毛剤ではありません。
効果は6ヶ月ほどで明確になり、増毛傾向が見られる場合もある。男性のみに有効で女性には効果がありません。
出典:「新ヘア・サイエンス」 公益社団法人 日本毛髪科学協会

脱毛症の種類