フラーレンの抗酸化力は未知なる可能性を秘めている
※所属、役職は取材当時のものとなります。
フラーレンとは何か
フラーレンとは近年発見され、化学者の間で一大センセーショナルを巻き起こした炭素の同素体(同一元素だけで構成される分子)で、炭素原子60個で構成されるC60などの多面体の総称だ。フラーレンC60の直径は0.7ナノメートル(ナノメートルは1メートルの10億分の1)で、サッカーボールのような構造をしているのが特徴だ。
発見されたのは1985年。それまでの、炭素だけでできている分子はダイヤモンドとカーボンの2種類という定説を覆し、英国、米国の発見者(1970年に大澤映二氏が北海道大学理学部助教授時代に予測していたが、考察の結果を和文雑誌だけに発表したので海外に知られることはなかった)3人は1996年にノーベル化学賞を受賞している。このフラーレンにいち早く注目したのが三菱商事で、その物質特性を生かして二つの会社を立ち上げた。一社は工業分野での事業化を目的に、三菱化学とともに2001年に設立した会社で、次世代の太陽電池ともいわれる有機薄膜太陽電池の実用化を目指す。
そしてもう一社が、2003年に設立されたビタミンC60バイオリサーチ株式会社だ。同社はライフサイエンス分野での研究開発及び事業化を進めており、現在は、フラーレンの「抗酸化力」を生かして化粧品市場にフラーレン化粧品原料を供給している。林源太郎社長と伊藤雅之研究員にフラーレンの特性と可能性について話をうかがった。
フラーレン化粧品原料の開発
ビタミンC60バイオリサーチという会社名について教えてください。
林源太郎:このビタミンC60とは、ビタミンCのCとフラーレンC60のCを重ね合わせたもので、フラーレンがビタミンCのように有名な抗酸化成分になってほしいという願いが込められています。
フラーレンにもビタミンCと同じように、活性酸素による酸化を防ぐ抗酸化力があります。フラーレンの抗酸化力をビタミンCと比較すると、実験方法により数値は異なりますが、125倍、172倍、または250倍以上と高い抗酸化力が確認されています。
このフラーレンは何から、どのように抽出されるのでしょうか。
伊藤雅之:自然界にも中国の高級墨や備長炭などにも含まれている事が近年分かってきましたが、極微量なので抽出しても製品化は難しい。そこで弊社では、まず特殊な条件下で炭素に強力なエネルギーをかけてその分子構造をいったんバラバラにします。そのうえで再構成させると微量ではありますがフラーレンが生成されるので、そのフラーレンを抽出するという手法をとっています。ダイヤモンドが自然界の特殊な高圧条件下でないとできないのと似ているかもしれませんね。
太陽電池と化粧品に使われるフラーレンは同じ物なのですか。
林:スペックは大分違います。化粧品に使われるフラーレンは人体に使われるものですから、不純物を完全に取り除いています。
伊藤:フラーレン自体の見た目はただの真っ黒な粉ですが、抗酸化力がある事は分かっていました。ただし問題は、まったく水に溶けないことです。そこでPVPという水に溶ける高分子でフラーレンを包み込み、水に分散させたのです。これがフラーレンの第一号製品のRadical Sponge®(ラジカルスポンジ)です。Radical Sponge®ができ、細胞実験や肌での効果が確認できるようになり、さらに安全性や安定性を高めることで、化粧品分野にフラーレンを幅広く使えるようになりました。
林:会社設立が2003年。Radical Sponge®の発売が2005年ですから、開発に2年プラスαの時を費やしました。
フラーレンの高い抗酸化力
新しい原料ですから、人々に理解されるまでには苦労があったのでは。
林:まったく新しい物質なので、これを化粧品原料として広めていくのは、客観的にみても突拍子もないことです。一番問われるのは安全性です。高い抗酸化力はあっても、肌に塗って肌荒れが起きないかなど、さまざまな条件下での安全性の評価に時間とお金をかけました。
最初に興味を持っていただいたのがお医者様です。病院に来た患者様に販売するドクターズコスメに配合していただいたり、美容レーザーの後に、患者様が肌荒れを防ぐ目的で使っていただくケースがどんどん増えました。お医者様はフラーレンの高い効果と安全性を診察の現場で体感し、評価してくれたのだと考えます。その後、市販や通販の会社が使ってくれるようになり、多くの消費者の方から、いろいろな効果実感の声が寄せられるようになりました。
どのような効果を発揮したのですか。
伊藤:「肌の透明感が上がった」「ニキビが減った」「シワが少なくなった」「毛穴が目立たなくなった」などいろいろな効果が会社に持ち込まれるようになり、それらをひとつ一つきちんと検証するために大学の専門の先生方にご協力いただきました。
肌のトラブルのほぼすべての原因は活性酸素です。活性酸素は外敵から体を守るためには必要ですが、多すぎると肌のトラブルにつながります。紫外線などで活性酸素が発生するとそれが刺激となってメラニンができ、肌が黒ずみ、それがずっと残るとシミになります。また、コラーゲンを破壊してシワやたるみの原因にもなります。そうした肌のトラブルに対処するのが抗酸化剤です。高い抗酸化力を持つフラーレンは、肌での臨床実験でさまざまな美肌効果があることが実証されました。
抗酸化剤といえば、ビタミンCやビタミンEなどもありますが、それらとフラーレンはどう違うのですか。
伊藤:フラーレンの抗酸化力の特徴は、「抗酸化力が強くて持続性がある」 ことです。弊社が行った実験では、24時間以上も抗酸化力が効いていることが確認されました。また、ビタミンCやビタミンEは光が当たっていると壊れやすい。しかし、フラーレンは光に強く、様々な条件下でも抗酸化力を発揮することが確認されています。
林:強くて長持ち、いろいろな活性酸素による酸化、特に紫外線による活性酸素に強いのがフラーレンの大きな特徴です。
頭皮環境を整えるフラーレン
このフラーレンは、育毛にも効果があるのでしょうか。
伊藤:大阪大学の乾重樹准教授に協力をいただき、実験していただきました。フラーレン(Radical Sponge®)が2%入ったトニックと入っていないトニックを、どちらにフラーレンが入っているかを教えないで、16人の男性に24週間(半年)耳の上辺りに塗り続けてもらいました。育毛剤はすぐ効かないとやめる人が多いのですが、実は半年は続けないと効果はありません。6 ヶ月後に解析をした結果、毛の成長速度は1.16倍ぐらい早くなりました。
それをどのように考えますか。
伊藤:抗酸化力が成長速度に良い影響を与えたことは確かでしょう。例えば、毛乳頭細胞までフラーレンが達しているかどうかはまだ分かりませんが、フラーレンは活性酸素種から細胞を保護する作用があることから、フラーレンが毛包内のいずれかの細胞への保護作用を介して毛が成長したという可能性が考えられます。
林:フラーレンは、その抗酸化力により頭皮の環境を整え、毛の成長サイクルを変えたといえますね。頭皮は太陽光線からの紫外線も浴びることで、かなりの酸化ストレスにさらされています。フラーレンが抗酸化剤として酸化ストレスを和らげることで、頭皮があるべき状態に近づいていくのです。
ということは、ほかのものと組み合わせることでより大きな育毛効果が期待できますね。
林:それは大いに考えられますね。フラーレンが酸化を防ぐことで、他の成分が酸化されずにその効果を十分に発揮するというデータも得られています。フラーレンはまだまだ新しい素材です。私たちも研究をしていますが、世界中の研究機関や大学でもフラーレンは多くの学者の研究対象になっています。これからも新しい研究結果がでてくるのが楽しみですね。
インタビュー・文/佐藤 彰芳 撮影/圷 邦信
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