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大阪大学大学院医学系研究科 皮膚・毛髪再生医学寄付講座准教授
日本臨床毛髪学会理事 乾 重樹 准教授
■最近では、ウィッグ(かつら)を装着することで、どのようにQOL(生活の質)が改善されるかという研究もされているとか。
乾氏: 脱毛が重症で、そして年齢が若いほど、その悩みは深刻です。なかには脱毛が強いコンプレックスになって、社会生活に影響を与える場合もあります。そのような状況の方がウィッグを着用することで、こうした心理状態が改善され、前向きに生活できるようになるとは一般的に言われているのですが、それを医学的な視点で調査したきちんとしたデータはなかったのです。
そこで私たちは、福祉用具利用者の心理的効果を定量的に評価するスケールとして、国際的に使われている「PIADS」を用いて、患者さんへのアンケートを行いました。
心理的QOLの調査では、効力感(外界の事柄に対し、自分が何らかの働きかけをすることが可能であるという感覚)、積極的適応性、自尊感(自分には価値があり、尊敬されるべき人間であると思える感情)の3つの因子がどう改善されているかがポイントになります。
乾氏: 結論からいうと、ウィッグを装着することで、効力感や積極的適応性、自尊感がいずれも改善し、その効果はウィッグを装着したときの見た目の満足度と相関することがわかりました。さらに、脱毛症が重症度に比例して、効力感と積極的適応性の改善度も高まることから、ウィッグのQOLへの影響は見た目の変化の大きさによって変わることがわかりました。
日本皮膚科学会が作成していた男性型脱毛症診療ガイドラインがこうした研究に着手したきっかけです。飲み薬や塗り薬、あるいは自毛植毛などさまざまな治療法を論文ベースで精査して、エビデンスがあるものは医師に推奨していく。そのガイドラインに、一般的に使われているウィッグを採り上げるのは当然のことだと思いました。
今回の研究で「ウィッグをつければ気持ちが前向きになりますよ」ということが、科学的にも証明されたことになります。私たち医学者の研究は最終的に、病気で悩む患者さんを身体的にも心理的にも救うことにあります。
最近のウィッグは大変進化しており、AGA・抗ガン剤使用の方も非常に期待されていると思います。LEDという新しい治療法に役立つ研究も、ウィッグの装着にはきちんとした裏付けがあるというデータを示すことも、共に大切な研究だと私は考えています。
インタビュー・文/広重 隆樹 撮影/圷 邦信
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記事初回公開日: 2016年6月3日
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