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【倉田荘太郎医師に聞く2】気になる生え際や頭頂部。決め手は自毛植毛?

目次:

■自毛植毛は自分の毛包の移植手術

■FUT法とFUE法が現在の主流

■医師選びとAGAケア継続が重要

■医師との対話から正しい選択肢を


「生え際がかなり後退してきた」「頭頂部が薄いと指摘された」など、薄毛に悩んだ際の選択肢のひとつに「自毛植毛」があります。特に、薄毛の状態が拡散していたり、広い範囲で脱毛したりして薬物療法では限界があるときには考えざるをえません。脱毛部分に自分の毛包を移植する自毛植毛の現状について、くらた医院院長、倉田荘太郎医師に聞いてみました。

■自毛植毛は自分の毛包の移植手術

自毛植毛とは、主に後頭部にある自分の毛包を脱毛した頭皮に移植する、外科的手術をともなう治療です。

男性の場合、側頭部や後頭部が薄毛になりにくいのは、その部分の毛包がAGAの原因のひとつである強い男性ホルモン「ジヒドロテストステロン」(DHT)の影響を受けにくいためです。

そこで薄毛に対して抵抗力のある毛包を採取し、脱毛した箇所に移植します。移植された毛包はヘアサイクルの成長周期を正しく維持し、後頭部と同じ毛を生やし続けます。毛包の数そのものを増やすわけではなく、もともとあった毛包を再配分する治療法です。

■FUT法とFUE法が現在の主流

世界で年間40万人近くが施術を受けている自毛植毛。その歴史は古く、実は1930年代に日本で行われた研究が基盤となっています。その後欧米で広まり、患者さんへの負担をより少なくする方法が開発され、現在では「FUT法」と「FUE法」の二つが主流となっています。

FUT法は、後頭部の皮膚を細長く帯状に切り取り、顕微鏡下で細かく切り分けて「グラフト」(毛包単位ごとの移植株)をつくり、それをバランスよく移植します。頭皮を切り取った後頭部には細い線状の傷跡が残りますが、周囲の髪を4センチ程度伸ばせば傷跡は隠れ、周囲に気づかれることはありません。手術時間は4~5時間ほど。当日はそのまま帰宅できますが、翌日に予後を見るため受診が必要な場合もあります。人によりますが、手術後1~2日間は痛みがあります。顕微鏡で見ながら切り分けるので毛包の切断率が低く、質のよい毛包を一度に大量に採取して効率よく移植できるのが特徴です。

FUE法は、移植株の採取方法が異なります。こちらは細いパンチ(先端がとがった中空の金属)で後頭部の毛包をくりぬいて移植株を採取します。採取した部分には穴があきますが、小さいので自然にふさがります。また、白色の小さな丸い痕が残りますが、髪が約1センチ以上伸びれば十分隠せます。ただし、皮膚の中に埋もれて見えない毛包をくりぬく手技なので、毛包の切断率が高くなります。切断された毛包は再生時に細くなったり再生率が下がったりすることがあるので、施術医のスキルは大切です。

手術となると、その費用も気になります。クリニックによって異なるものの、FUT法の場合、毛包一つにつき300円程度が目安です。M字を埋めるためには50~100万円かかり、FUE法はさらに高額で、FUT法の費用の約2倍かかるのが一般的です。

■医師選びとAGAケア継続が重要

確実な効果が望める自毛植毛ですが、毛包の定着率は100%ではありません。定着率は施術医の手技に左右されます。もともとある毛包を再配分する治療ですので、失敗すれば大きなロスになります。また、生え際に移植する場合、定着後の見た目の自然さがとても重要です。医師には美的センスとそれを実現する手技も求められます。いずれにしても、医師選びがとても重要になります。

気をつけたいことがもうひとつあります。自毛植毛はAGAの進行を止めるわけではありません。AGAの方は外用や内服によるケアを継続しないと、植毛していない部分の薄毛が進み、“離れ小島”状態になってしまうこともあるのです。

■医師との対話から正しい選択肢を

薄毛に対してさまざまな治療方法がある現在、どれを選ぶかはご本人の考え方次第です。生え際の後退がかなり進行していても気にせず、薬物療法での現状維持を望む方もいれば、それほど進行していなくてもかつての状態に戻したくて自毛植毛を検討する方もいます。

医師の側も施術するかしないかの見極めは、それぞれの患者さんの状況を考慮しつつ対話を通じて判断しています。私の場合、2017年のガイドライン(外用薬や内服薬の効果が十分でなく、ほかの方法がない場合)に沿って行うよう心がけています。


>>倉田荘太郎医師に聞く1: 発毛の治療、「何科」に行けばいい?

>>倉田荘太郎医師に聞く3: 新ガイドラインから見える薄毛治療の未来


監修
日本臨床毛髪学会 / 常任理事
アデランス / メディカルアドバイザー
別府ガーデンヒルクリニック / くらた医院院長 倉田荘太郎医師

>記事初回公開日 :  2018年10月10日