薬による治療や自毛移植も、もはや当たり前に
大阪大学 大学院医学研究科 板見 智 教授
ここまでわかってくると、対策も講じやすいですね。
メカニズムの解明は、薬剤による治療に大きく道を開きました。何らかの薬によって男性ホルモンから出ている、成長抑制シグナルをブロックすればよいわけですからね。そういう発想で生まれたのが、「フィナステリド」という薬です。これは、テストステロンをDHTへ変換する還元酵素の働きを阻害し抑制シグナルを弱めます。
もともとは前立腺肥大症の薬として開発されていましたが、男性型脱毛症に効果があることもわかり、〝飲む育毛剤〟「プロペシア」などの商品名で販売されています。3年間にわたって服用を継続すると、80%の人に「髪の毛がやや増加」する現象が見られたという臨床試験のデータがあります。
また、塗り薬(外用薬)に「ミノキシジル」があります。これはもともと血管拡張作用のある薬で、毛の発育促進も、実は副作用の1つ。フィナステリドとは違って毛乳頭細胞から細胞増殖因子を分泌させることで発毛を促します。育毛剤は大きな市場ですから、各メーカーから今後もさまざまな新しい薬剤が開発される可能性は充分にあります。
さらに、植毛をして髪の毛を増やすという選択もありますね。
正しいヘアサイクルを示している部位から自分の毛包を取りだし、それを成長が止まった部位に移植して、定着させる手術ですね。よく行われるのは、後頭部の毛包を前頭部や頭頂部に移すというものです。
先ほど、発毛を促すメカニズムで、男性ホルモンレセプターの話をしました。前頭部、頭頂部の毛乳頭細胞には男性ホルモンレセプターがありますが、後頭部にはこれがない。レセプターがなければ、男性ホルモンのシグナル作用が働かない。男性型脱毛症の患者さんでも、頭の上のほうはすっかり薄毛なのに、後頭部にはまだ毛が残っているケースが多いことからもわかります。
自毛移植なら拒絶反応がありませんから手術も比較的簡単です。ただ、毛の数には限りがありますので、1万本ぐらいまでが限度でしょうか。
Vol.1 男性ホルモンからの信号が髪の毛の成長をコントロール
Vol.2 薬による治療や自毛移植も、もはや当たり前に
Vol.3 エビデンスに基づいたガイドラインを活用
記事初回公開日: 2016年4月15日