スカルプケア(頭皮のケア)という言葉はあるが、サイエンスと言えるだろうか。これをサイエンスにすることによって、頭皮と毛髪の問題を解決できる。それが、ほんとうの意味のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に健やかな状態にあることを意味する概念)につながる。
東京大学大学院医学系研究科健康科学 老年看護学/創傷看護学分野 教授真田 弘美 教授
■患者の頭皮に何が起きているのかを知ることが先決
―まず、褥瘡(床ずれ)に注目された経緯から教えてください。
看護師として就職して最初の年に、初めて早期の褥瘡を見つけて看護師長に報告したんです。そうしたら「褥瘡を発生させたのは看護の恥なのよ」と言われました。そうした言い方を初めて聞いて驚き、どうしたら予防したらいいのか文献で調べたのですが、わかったのは、まったく科学的に解明されていないということだけでした。
さらに、8年も10年も褥瘡が治らない患者様も珍しくないし、それを「治らないから」とあきらめている看護の現場では、患者様も看護師も苦しんでおりました。患者様のそういうところから、褥瘡の研究に取り組むことになりました。
―そこから、どうして頭皮へ結びついていったのでしょうか。
褥瘡に端を発し、これまで慢性創傷を広く研究してきました。その一つが乳癌が皮膚に転移した癌性創傷です。癌性創傷は女性のシンボルともいえる乳房を中心に大きく壊死組織が表在化します。患者様は、多量の浸出液や強い臭い、そして痛みを抱えながら社会生活を送らなければならない。
正にウェルビーングが損なわれた状態です。こうした患者様の苦痛を少しでも軽減するために、癌性創傷のケアを根本から見直すための研究を行いました。その中で、乳房と同様に女性のシンボルである毛髪を治療の過程で失うことに、患者様がひど傷ついて苦しんでらっしゃることを知りました。そして、私たちがこれまで培ってきたスキンケアに関する知識や技術はこの問題にも応用できる、私たちが取り組まなければならない課題だと感じたわけです。