園田マイコさんに聞く
後編 きれいになるという目標があると、それが叶ったとき自信につながる
モデルさんたちの衣装は、昨年に続いて、以前レンタルドレスショップを経営されていた塩崎良子さん(現在、株式会社TOKIMEKU JAPAN 代表取締役社長)から提供されました。塩崎さんは主治医だった山内英子先生(聖路加国際病院 乳腺外科部長、ブレストセンター長)から、昨年、ファッションショーの提案があったことがきっかけで、今回も実行委員として携われたそうです。
―― ショーの最後では、レンタルドレスのショップを経営されていたけれども、乳がんになり、お店を閉めざるを得なくなったという塩崎良子さんと、美容ジャーナリストの山崎多賀子さんのお二人が紹介されていました。
- お洋服はすべて良子ちゃんのお店のものです。ドクターたちが着ていらしたベルサーチも。良子ちゃんが好きな、イタリアのお洋服が多かったですね。
―― マイコさんは、このショーに、山崎多賀子さんからお声がけいただいたんですよね。
-
はい。山崎さんは、美容ジャーナリストですから、以前からパーティなどでちょこちょこお会いしていました。
あるときパーティに行ったら、山崎さんが五分刈りでシックなドレスを着ていて、驚いて「どうしたんですか」とお聴きしたら、「ちょっと抗がん剤治療で」。ですから、自分が宣告されて落ち込んだとき、山崎さんにご連絡したんです。「実はこんな状況で」とお話ししたら、「わかった。会おう」とすぐに言ってくださって。
山崎さん、前向きでガッツがあって元気いっぱいでしょう? 私もちゃんと病気と向き合って治療すれば、元気になれるかもしれないと思うようになって、それからずっといい距離感を保っておつきあいさせていただいています。
―― マイコさんのお洋服はボーイッシュな紫のジャンプスーツでしたね。ご自分で選ばれたのですか?
-
はい。ラルフ・ローレン様からお借りしました。同社も「ラルフ
ローレン ピンク
ポニー」というチャリティ活動をされていて、2015年の「ラルフ・ローレン ピンクポニーウォーク」に参加した際にこのイベントの話をしたところ、「ぜひうちのお洋服をお使いください」とおっしゃって下さいました。
いくつか候補を出していただいたのですが、ジャンプスーツが今年らしいと思ったのが理由のひとつです。それから、質感がてろっとして光沢のある独特の素材だったこと。良子ちゃんには「みなさんが派手なので、マイコさんはシックな色合いで決めていただきたいなあ」と言われていたので、決めました。
――
ボランティア・スタッフとして裏方だったマイコさんですが、マイコさんが最後にランウェイに登場したときのどよめき、すごかったですねー!雰囲気が一変して、一段と大きな歓声に包まれました。
みなさん、ステキでしたけど、マイコさんは身長やポーズだけでなく、オーラもまったく違いました。プロとはこういうものかと。
- 一応、20ウン年のキャリアですので(笑)。
―― マイコさんには治療時、引きこもってしまった時期もあったそうですね。立ち直ったきっかけが「おしゃれをすること」だったと、どこかでお話しされていましたね。
-
そうなんです。抗がん剤が少し安定したとき、友だちに『そろそろランチに行こう』と誘われ、これがきっかけになりました。
点滴を受けると1週間くらい調子が悪いので、外に出たくなくて、お風呂に入ったとき、その日はじめて顔を洗うとか、毎日同じ服着ているとか、そんなふうだったんです。
でも、出かけることになったので仕方なくお化粧してみたら、「あれっ!?」という感じで、世界がぱあっと明るくなったんです。メイクやおしゃれの力はすごいとそのとき思いました。
―― マイコさんにもそういう時期があったんですね。いま落ち込んで引きこもっている方にも、このインタビューを読んで元気になってほしいです。そういえば、前述の塩崎良子さんが素晴らしいことをおっしゃってました。
『入院しているときに見た、がん研有明病院からの夜景はムダにきれいだった。でも当時の自分に、その夜景のように、将来は輝いているから大丈夫だと、言いたい』
- 本当にそう言ってあげたいです。そのとおりです。
―― 今年、ファッションショーは話題になり、取材も昨年より多かったそうですね。
- 私はまた12月に患者会のクリスマスイベントでモデルとしてウォーキングをします。
―― 乳がんに関わらず・・・なのかもしれませんが、病気を経験しても、より美しくという方向に皆さんの意識が向かっている気がします。結果として、ショーなどの機会が増えるのは同じ病気の方々に大きな勇気を与えますね。
最後に、治療後7年たったマイコさんから見て、このイベントを振り返ってどのように思われますか?
- この病気になってよかったという思いがやっぱり強いですね。病気をしていなかったら舞台にも立っていないし、こんな素敵な人たちとの出会いもありませんでした。日々、人との出会いが濃くなっている感じがするので、病気に感謝しています。
―― 一方で、「みんなががんを語れば、がんが普通のことになっていく」ともおっしゃっていますね。その観点からはいかがですか。
-
お化粧し、髪をアレンジしてもらい、ステキなお洋服を着てきれいになることに、女性なら誰でもあこがれると思うんですね。きれいになると気持ちもわくわくして、気持ちがわくわくするとその思いが外側にも出てくると思います。今回登場されたみなさんは本当にきれいでキラキラしていました。そんなふうに、がんの患者さんが輝くイベントが、どこかで続くといいなあと思います。
病気になると、ついついふさぎ込んで、「私なんてどうでもいいや」と思いますが、きれいになるという目標があると、それが叶ったとき自信につながるし、人前で歩いたり自分をアピールすると、その場所が自分の輝く場所になる。いいイベントだったと思います。
―― 見ている人たちは号泣していましたが、モデルのみなさんはすばらしい笑顔でした。
- みんな、目いっぱい楽しんで歩いていましたよね。
――
繰り返しになりますが、モデルさんたちが、前向きで素晴らしかったです。
命には限りがあるのだから、私もきちんと生きていかなくちゃ、という気持ちになりました。
マイコさん、今日はどうもありがとうございました。
ライター:半沢裕子
※登場人物の肩書は2016年6月当時のものです